CP -ONLINE REPORT MEDIA from TOKYO・CREATORS PARK- 東京・クリエイターズパーク

  • YouTube
  • facebook
  • twitter
  • RSS
TOP | NEWS

theatre tokyo / creator’s park スペシャルインタビュー

2012.12.26 up
theatre tokyo スペシャルインタビュー
       

Vol. 7 「essential EAMES」展 ライフスキルとしてのデザイン力をすべてのひとへ
イームズ・オフィス ディレクター イームズ・デミトリオス氏


text/photo (portrait) : 本間順子 (creator’s park)

現在リビングデザインセンターOZONEにて開催中の「essential EAMES(エッセンシャル・イームズ)」展。ミッドセンチュリー時代に新しいデザインの潮流をつくったチャールズ(1907-1978)とレイ・イームズ(1912-1988)の生涯を通して、デザイン哲学や精神を、
孫で、イームズ・オフィスのディレクターであるイームズ・デミトリオス氏が綴った書籍”An Eames Primer”[邦題:「イームズ入門―チャールズ&レイ・イームズのデザイン原風景」(日本文教出版)]の内容をもとに展開し、資料や実物の作品展示や映像から改めて見てとることができる展覧会です。

展覧会会場にてイームズ・チェアに囲まれながら、映像作家でもいらっしゃるイームズ・デミトリオス氏に、映像作品を中心に伺ってまいりました。世界各国で講演やワークショップも多く行われている氏は、インタビューながら贅沢にもマンツーマンのワークショップのように、ダイアローグを展開してくださいました。


すべてはもてなしの心から

”An Eames Primer”を拝読して、一般的な「デザイン」の枠組を超えて、だれもが良いものを手に入れられるようにという、後のユニバーサル・デザインというコンセプトにつながっていったようなライフスタイルのデザイン、生きる哲学として拝読させていただきました。

イームズご夫妻にとって、映像は多くの人へ哲学や発想を伝えるためのツールで、エッセイのようであったということですが、どういった映画を当時ご覧になられていたのでしょうか。


いろいろな映画を観て楽しんでいました。ホラー映画やフランケンシュタインの映画、古い映画などをよく観ていましたね。
チャールズはMGM(メトロ・ゴールドウィン・メイヤー)社で美術をしていたこともあるんです。『ミニヴァー夫人』(1942)は第2次大戦中のロンドンを舞台にした映画ですが、帽子屋のセットなどをつくっていました。映画製作については、短期間でしたが、そこでも学んでいたようです。敬愛していたビリー・ワイルダー監督ともそこで出会いました。
チャールズがよく言っていたことですが、映画つくりは簡単に見えるようで、その背景にある血は見えないものだ、と。


チャールズとレイ・イームズ

「解決されるべきニーズがあるからデザインが生まれる」というのが、イームズご夫妻のデザインの基本にありますが、日本では短期的な視点で、普遍的なニーズは無視され、特定のターゲットものがデザインされ、消費されていきます。「30年のひらめき」としてのイームズ・チェアであったり、あるいは映画における『Powers of Ten』や『アメリカの一日』に、デザインのプロセスを大事にされたイームズご夫妻が、どのように時間や空間を捉えられ、その中でいかにデザインを考えられたのかが凝縮されていると思うのですが、ご夫妻はそのような超大さ、雄大さ、普遍的なものを俯瞰する視点にはどのようにして辿り着かれたのでしょうか。

ある意味、これはチャールズのキャラクターの一部だったと思うのです。何に対しても好奇心の非常に強い人でした。チャールズとレイの初期の手紙のやり取りであったり、それは父としてのチャールズに対する、私の母の思い出の中にも現れていました。世界の中の自分の立場やつながりを顧みることや、デザインの中でパターンを観察し、何事も当たり前に思わず、原点に立ち返るスタンスを持っていました。本書の中でも重要なポイントである「もてなしの心」にもつながってくるところです。

あなたはチャールズのメキシコへの旅のエピソードをご存知ですか?知らない?よかった。ぜひお話しましょう!
チャールズは世界恐慌の折、セントルイスからメキシコへ行き、メキシコには8ヶ月間滞在していました。画家として生計を立てていたのです。そうして、食事や宿を提供してもらっていました。そこでチャールズは気づいたことがありました。どこにいても、どんなにタフな状況にあっても、それ以上に幸せで、楽しいことが、そして文化的に社会的に豊かなものがあるのだ、ということに。

チャールズはそのような体験をして、心に決めたのです。仕事は生活のために何でもすればよいのではなく、世界の中の深い部分を観て、その経験の純粋な部分から仕事を進めていこう、と。彼は決してロマンチストではいんです。


イームズアルミナムグループチェア、イームズワイヤーチェア、イームズシェルチェア

オーガニックチェアがクロス張りになっているのは、決して欠点を隠すためではなく、心地よさのためであるわけです。最初にあなたは「ユニバーサル・デザイン」と仰られましたが、それはエッセンスの追求から来るものです。「スタイル」というのは、エンドユーザーにとっても、ノイズにすぎません。いすというプロダクトを考えたとき、それはホスピタリティのアイデアをどう形として実現させるか、ということに他なりません。
あなたがインタビューに来られた。ここにはカメラや携帯電話を置くことのできるいすが用意されています。人間の本質や気持ちを理解し、良きホストであろうとするならば、そこに驚くべきことは何一つありません。

ミサイルではなく、花を

『アメリカの一日』(1959)は、冷戦の真っ只中、モスクワで開催されていたアメリカ博覧会で、7面のマルチスクリーンによって上映されました。アメリカ博覧会はソ連とアメリカの文化交流プログラムの一環で、展覧会のディレクションはジョージ・ネルソンに委ねられていました。彼はハーマンミラー社とイームズ夫妻のコラボレーションへと橋渡しをしたデザイナーです。まさにニクソン(当時副大統領)とフルシチョフ(当時首相)のあの有名な「台所討論」が行われたモデルキッチンから20メートルしか離れていないところでチャールズとレイはアメリカの生活の光景を上映していたのです。この展覧会には2ヶ月で300万人が来場しました。
あなたは『アメリカの一日』をご覧になりましたか?あれは何を伝えようとしていたと思いますか?

高速道路なら高速道路、建物なら建物、人なら人、というように一つのカテゴリー毎にまとまって見せることで、一言でアメリカといっても、多様な面があることを伝えたかったのではないでしょうか。

多様性、そうですね。実は当局からは軍事力を見せつけるようにという要請もあったようなのです。しかし、チャールズとレイはプロパガンダよりも、ソ連とアメリカの双方の人々にとってよりポジティブなコミュニケーションができるようなものを目指しました。アメリカの人々の肖像を見てもらおうと思ったのです。

例えば一つのスクリーンで高速道路がただ映っているだけであれば、それが美しいグラフィックだとしても、「それならキエフにもある」という感想にしかならないかもしれません。しかし、どうでしょう、20秒で70ショットもの高速道路が繰り広げられたら、高速道路がアメリカの生活の一部であることを見て取れるでしょう。12分で2200ショットもの静止画像からオープンセットとして、アメリカの全景を認識してもらい、人間の情緒に働きかける映像の力を通して、観客との間に信頼関係を築こうとしたのです。

地図上と時間軸の中で日常の数字を可視化する

イームズ・デミトリオスさんはイームズご夫妻の「映像は多くの人へ哲学や発想を伝えるためのツールである」という考えを継承されて、『Powers of Ten』(1977)のワークショップを世界各地でされているということですが、これまでどのような国々へ行かれているのですか?

アメリカ国内から、オーストラリア、イギリス、ポルトガル、台湾などですね。日本にも10年前に札幌で行いました。先日この「essential EAMES」展でジャカルタでも行って、これから上海、香港、シンガポールで予定しています。

次の展覧会開催地シンガポールでも開催されるんですか、非常に羨ましいです! これまでのワークショップでは、どんな反響がありましたか。

ワークショップは学生をターゲットにしたものと、企業向けに、ブランドマネジメントのブレインストーミングのテクニックとしても行っています。


『アメリカの一日』(1959)と『Powers of Ten』(1977)

100万を数えるのにあなたはどれくらい時間が必要だと思いますか?約7日ですよ。1億だったら約20年です。私たちにとってそれは自然ではないですよね。でも、私たちは日々、経済や政治の話題で、そういった数字を扱っているわけです。本当の意味を地理とタイムラインによって、スケールを理解することが重要だと思っています。
世の中はある意味スケールを消そうとしているのですけれど、ライフスキルとしてのデザインはスケールを可視化することからスタートします。

皆、ノミだったら何とかサイズを捉えているけれども、10の24乗という1億光年先というのは、もうハッブル望遠鏡の域となってある種のチャレンジの領域となってしまうのです。宇宙の中でも、あるいは10のマイナス10乗という生き物の細胞の原子までズームアップすると、もう誰のものでも同じ、ということがわかります。
『Powers of Ten』のワークショップのリクエストがたくさん来るのですが、全てには応えきれないので、先生が自分たちでもワークショップが行えるように『Scale is the New Geography』というDVDを開発しました。
日常の数字をタイムライン上で可視化していくことも一つの方法です。例えば、マラソンの大会があったら、42.195キロメートルはこの地点、という風に日常の出来事をマークしていくのです。

デザインはプロフェッショナルの技術ではなく、すべてのひとにとっての生きるためのスキル

イームズ・オフィスは『Powers of Ten』や『Scale is the New Geography』などの映画を製作したり、『マテマティカ』(1961)のような展覧会をされてきています。なぜ教育という側面に強くコミットされているのでしょうか。

イームズ・オフィスとしてはチャールズとレイの作品の管理や保存の必要性だけに止まらず、新しい解釈とともに発展させていくという役割があります。チャールズとレイには、良いものをマスプロダクツとしてリーズナブルな価格で提供できるようなデザインを開発していたことと同様に、たくさんの人を助けたいという思いがありました。そして科学を理解することを重要だと思っていました。究極の宇宙という本質に迫って、人々に啓蒙したい、というのは自然な形でした。

デザインというのは大きく2つのことが言えると思います。1つは装飾的なデザイン、そしてもう一つはシステムのデザインということです。チャールズは構造について非常に強く興味をもったひとでした。建築だけではなく、この世界のあらゆるものに関して。それは生きるための、ライフスキルとしてのデザインであると思うのです。
私はこのライフスキルとしてのデザインということを伝えていきたいと思っています。



イームズ・デミトリオスさんのプロジェクト『Kcymaerxthaere(キメリスフィア)』について、詳しく教えてください。

キメリスフィアは私たちのいるこの世界と平行して存在している宇宙のストーリーを、本やパフォーマンス、インスタレーションといった形で伝えていくプロジェクトです。世界中を旅しながら一ページ一ページが異なる地域によって編纂されていきます。これまで19カ国89カ所で行ってきました。

人間の本質として、存在しないものはどうでもよい、と思うところがあります。その存在しないものをどのように解釈して、ヴィジュアル化していくのか、というプロジェクトです。
例えばアルメニアという国は20年前には存在していませんでした。あり得る可能性をフィクションとして思い描き、ヴィジュアル化していくのです。どのように語り、人々をつないでいくのか。これはある経験をするための方法となります。
また、ナミビアでは刺繍によってビジュアル化してもらいました。興味深いことに彼らに共有されている共通のストーリーが浮かび上がってきたのです。一人一人のバージョンは異なっていても、共通するものがあり、クラスターとなって現れてくるのです。


映画がお好きなら、ここで撮影しましょう、と氏に選んでいただき、チャールズとレイが友人のビリー・ワイルダー監督のためにデザインした「イームズチェイス」(1968年発表)とともに撮影。



おそらく、多くの人が予想していたインタビューの展開とは違ったものだったのではないでしょうか。イームズ・デミトリオス氏は「平和」という単語を一言も発しませんでした。しかし、チャールズとレイからイームズ・デミトリオス氏に継承されている「スケールの哲学」は、見えないものを可視化し、日常の生活の中にあるものに落とし込んでいくライフスキルとしてのデザインの力でした。その根底にある「もてなしの心」は、あるいは、「キメリスフィア」の存在しないものを想像し、可視化し、共有していくプロセスは、ひととひととの関係の中で「平和」を築く礎に他なりません。それはまさに今、私たち日本人が、不況についで、大震災を経験し、その中でこれまでの経済活動を超えて生きるという営みを模索している中で、そして世界中で紛争の中にある人々が必要としている生きるためのスキルという哲学でありました。



Eames Demetrios (Eames Office)

作家、マルチメディアアーティスト、映像作家。1993年よりイームズ・オフィス(カリフォルニア州サンタモニカ)のディレクターを務める。著書に『Wartime California』、『Changing Her Palette : Painting by Ray Eames』、『An Eames Primer』などがある。またフィルム作品に1988年にレイ・イームズが亡くなり、「901」と親しまれたチャールズとレイ・イームズのオフィスをクローズするにあたって、その45年に刻まれたカルチャーの記憶を撮影した『901 : after 45 years of working』、『77 Steps』、『Powers of Time』、『The Giving』、『Common Knowledge : An Oral History of 1988』、『Lucy’s House』、『Ping Pong』、マルチメディア作品に『Power of Ten Interactive』、アートワークとして『Mercury Portfolio』、『Kymaerica.com』などがある。



会期: 2012年12月7日(金)〜2013年1月15日(火)
    10:30〜19:00 ※水曜休館(祝日を除く)、12月26日〜1月3日冬期休館
会場: リビングデザインセンターOZONE(3F OZONEプラザ)
    東京都新宿区西新宿3-7-1 新宿パークタワー
    03-5322-6500  www.ozone.co.jp
入場料: 無料
主催: ハーマンミラージャパン株式会社
特別協力: リビングデザインセンターOZONE



◆イームズカフェが期間限定オープン

ザ・コンランショップカフェ(リビングデザインセンターOZONE 3F)が、期間限定で「イームズカフェ」に変わります。
カフェの椅子が全てイームズシェルチェアに変わり、イームズフォントやイームズのグラフィックをあしらったメニューも登場します。

イームズカフェ
リビングデザインセンターOZONE 3F
東京都新宿区西新宿3-7-1 新宿パークタワー 03-5322-6444

2012年12月7日(金)~2013年1月15日(火) ※水曜日(祝日を除く)、12/26~1/3冬季休館
月、火、木曜日10:30~19:00 (L.O. 18:30)
金、土、日曜日10:30~19:30 (L.O. 19:00) ※1/4(金)~ 全営業日 10:30~19:00 (L.O. 18:30)

POSTED BY
Junko HONMA
Junko HONMA / Movie Journalist
「クリエイターとのダイアローグからそのさきへ。そんな“場”をつくっていけたら。」
2012年より映画の上映会や配信の運営、PR、TVドキュメンタリーの制作の現場を経て、“ことばで伝える”ことに立ち返り、表現を取り巻く状況が大きく変わりゆく時代の中で国内外で“領域”を越えて、新たな取り組みに挑戦しつづけるクリエイターのいまをお伝えします。本サイト「theatre tokyo/ creators park スペシャルインタビュー」ほか、ウェブマガジン『HYPEBEAST.JP』ではライフスタイル、カルチャーの翻訳を担当中。大阪の制作、エキストラで初参加させていただいた、リム・カーワイ監督作品『Fly Me to Minami~恋するミナミ~』DVD/iTunes配信も絶賛発売中!!