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短編ドキュメンタリー映像『石風呂ノ記録 A record of Ishiburo』

2017.05.17 up
ishiburonokiroku
       

近頃、サウナブームと聞く。そんな中で「石風呂」という言葉は、実はこの14分の映像『石風呂ノ記録』で初めて耳にした。京都から西の温泉のない地域で、洞窟や石でつくった浴室を松葉や枝木を燃やして温め、床には海水でぬらしたムシロや海藻を敷いて、ミネラルを含んだ蒸気をサウナのように利用した風呂の文化だった。これらの資源に恵まれていた瀬戸内海沿岸に特に多く、古くから人々は石風呂で身体を温め、農作業や漁業の疲れを癒してきたようだ。

夏は海水浴場としても人が訪れる広島県竹原市忠海(ただのうみ)で戦後、石風呂を経営してきた「岩乃屋」が、二代目稲村喬司さんの代で2016年11月6日をもって閉業した。

「僕が初めて石風呂を体感した日の帰り際、『この風呂は国をあげて守るべきだ』と大将に気持ちをぶつけ、家に帰るのを待てず嫁に電話で『カメラやめるかも..』と話したことを思い出す。
(…)
翌朝いつも通りの8時から仕込みは始まった。想像を超えていた。この作業を明日から毎日、朝から晩まで、まとまった休みもとれず、お客が来ずとも継続するのだと思うと正直ゾっとした。簡単に『継がせてくれ』などと言ってはいけないと感じた。」

これまでニューヨークでファッションの広告や編集のクリエイティブディレクターをしてきて、2013年から写真と映像を撮るようになったShu Kojimaの『石風呂ノ記録』のディレクターズノートにある言葉だ。大将は1991年に病気をするまでは、石風呂の温度を保つために年中無休で働いてきたようだ。映像の中で大将が語るように、風呂は各家庭にあるのが当たり前となり、技術が進歩して割とどこでも温泉を掘リ出すことが可能になって、客も少なくなった。そして、大将の岩乃屋がこだわってきた石風呂に欠かせないムシロ、エダギ(枝木)、アマモ(海藻)の入手が産業構造や自然環境の変化で年々難しくなってきていることもある。

一度絶えてしまった文化は、映像と言葉による人々の生活文化の記録*があれば、変わってしまった自然環境や人々のライフスタイルに合わせて、私たちはまたいつか「復活」させることができるのだろうか? いや、きっと監督自身が体験したように、かなり高温となっている石風呂への入り方を新規の客に「伝授」してくれる常連客もまた、文化の継承に欠くことのできない存在に違いない。

*参考文献:
印南敏秀『東和町誌ー資料編四 石風呂民俗誌 もう一つの入浴文化の系譜』山口県東和町、2004年。
同『三河湾の海里山の綜合研究I 里海の生活誌ー文化資源としての藻と松ー』愛知大学綜合郷土研究所、2009年。



POSTED BY
Junko HONMA
Junko HONMA / Movie Journalist
「クリエイターとのダイアローグからそのさきへ。そんな“場”をつくっていけたら。」
2012年より映画の上映会や配信の運営、PR、TVドキュメンタリーの制作の現場を経て、“ことばで伝える”ことに立ち返り、表現を取り巻く状況が大きく変わりゆく時代の中で国内外で“領域”を越えて、新たな取り組みに挑戦しつづけるクリエイターのいまをお伝えします。本サイト「theatre tokyo/ creators park スペシャルインタビュー」ほか、ウェブマガジン『HYPEBEAST.JP』ではライフスタイル、カルチャーの翻訳を担当中。大阪の制作、エキストラで初参加させていただいた、リム・カーワイ監督作品『Fly Me to Minami~恋するミナミ~』DVD/iTunes配信も絶賛発売中!!