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theatre tokyo / creator's park スペシャルインタビュー

2012.12.20 up
theatre tokyo スペシャルインタビュー
       

Vol. 6 いまアジアで一番会いたい女優・プロデューサー
『おだやかな日常』主演・プロデューサー 杉野希妃さんに聞く世界のいま


text/photo : 本間順子 (creator’s park)

今年10月、オーディトリウム渋谷にて「リム・カーワイ監督特集 シネマ・ドリフターの無国籍三部作」がレイトショーにて上映されていました。『マジック&ロス』(2010では韓国映画『息もできない』(2008)のヤン・イクチュン監督・主演、女優キム・コッピと共演し、かつ、プロデューサーまでこなしてしまう。昨年の第24回東京国際映画祭では「アジアの風-女優=プロデューサー杉野希妃 アジア・インディーズのミューズ女優」という特集が組まれる彼女は一体どんな方なのでしょう?

世界中の映画祭を駆け巡る杉野希妃さんという女優・プロデューサーの存在に、日本のアジア映画市場にまた新しい時代が来た!そんな期待を胸に、11月23日から12月2日まで開催された第13回東京フィルメックス・コンペティション部門 内田伸輝監督作品『おだやかな日常』(2012)の上映翌日にお話を伺ってまいりました。


清美(渡辺杏実)とサエコ

©odayaka film partners



日本で起こった3.11以降の原発事故、その後の日本社会の反応だったりを、世界が気にかけてくれている。

東京フィルメックスでの舞台挨拶でもお話されていましたが、内田監督はこの映画をつくらないと、次へ行けないと思われ、杉野さんも被災地からの微妙な位置である東京でのフィクションとして、人間の在り方が問われる意義のある作品として参加された、とのことでした。
放射能の問題は同じ日本の中でも距離が遠くなればなるほど、なかなか理解を得られにくい状況となりうること、断絶や孤独をもたらしてしまう状況が主題となっています。杉野さんが演じられるサエコ親子のそんな断絶や孤独は、実は3.11以前から日本にある一つの態度によるものであったと私は思います。そういった態度によって抑圧されたり、命すら脅かされることが日常の中にはあります。『おだやかな日常』では篠原友希子さん演じるユカコとの関わりによって、サエコ親子は再び明日へ向かっていける強さを得、私も観客としてその強さをいただきました。

国際的なオーディエンスを意識されて企画されたとき、脚本あるいは演技、演出において、どのように距離感を乗り越えようと、みなさんでつくられたのでしょうか?


個人的な感覚ですが、この作品について、日本と同じくらい海外の方も関心を持ってくださっていました。距離感を感じなかったというか、海外でも、日本で原発事故があった後、ドイツで多くのデモがあって原発自体が廃止されたりする一方で、フランスはまだ原発依存の国であったり、いろんな国でも起こっている出来事という意味では、すごく興味深く、早く観たいと仰って下さる方が多くいらっしゃいました。韓国で上映したとき(第17回釜山国際映画祭)には、チケットが即完売で、これだけみなさんが日本で起こった3.11以降の原発事故、その後の日本社会の反応だったりを、気にかけてくださっているんだ!ということがすごく嬉しかったですね。

つくっている過程でも、私はよく映画祭で「今、こういう企画をやっているから出資してほしい」とか「出来上がったら即観て上映を決めてほしい」とか、そういう交渉を先にしています。その交渉の過程でも、私は距離感を全然感じなくって、普通の映画をつくるときよりも、むしろずっと近くで、寄り添ってくださっている、待ってくださっている、という感覚がありました。つくりながら海外から見守られているな、という感覚を持ちながらつくっていった感じでした。

逆に国内で遠く感じることも?

日本では、出資集めのときに、メディア関係に最初は当たっていたんですけれど、乗って下さる方があまりいらっしゃらず、これはもう、一般企業やこういう問題に対して興味をもってくださっている個人の方にどんどん当たっていく方が作品としても良いものがつくれるのではないか、という気持ちに変わりました。


サエコとユカコ(篠原友希子)

©odayaka film partners



その中で、クラウドファンディングという方法にもつながっていくんですね。『おだやかな日常』についてクラウドファンディングを実施されて、目標金額を達成されました。おめでとうございます!映画製作におけるクラウドファンディングの可能性について、どのようにお考えですか?

ありがとうございます!つい先日達成できました!実はこの映画製作まで、クラウドファンディングについて知らなかったんですね。『seesaw』(2010)の完山京洪監督がされていたり、その後、深田晃司監督土屋豊監督がされている流れで、そういうものがあるということを後から知りました。宣伝費も足りていないし、ぜひともやろう!ということで10月くらいから始めました。可能性としては大いにあると感じています。

クラウドファンディングという存在をもうちょっと広めていけば、映画ファンだけではなくて、もっと先の、このテーマに関心がある、とか、その土地に住んでいるから、という形で興味を持って寄付をしてくださるという可能性もあると思います。今回motion galleryというサイトを利用させていただいていたのですが、色々と助言もいただいたりしてお世話になりました。あのように受け皿となるウェブサイトやシステムがあるとみなさん安心して、前向きに理解して寄付してくださるのではないかなと。
そして、ほかの作品でたまたまmotion galleryを見られた方が、違う作品について、こういうのもあるんだ!と知っていただけるような宣伝効果も確実にあると感じています。

観客によって捉え方が異なる、余白のある映画を

釜山国際映画祭ではチケットが完売というお話でしたが、上映後、実際にはどのような反響だったのでしょうか?

海外でも日本でも賛否両論ある作品なのではないかと予想しているのですが、釜山ではかなりほとんどの方が好意的に観てくださって、反響もものすごく大きかったんです。それは多分釜山という場所に原発がまずあって、釜山映画祭の前にもちょっと原発のアクシデントのようなものがあったみたいなんですね。Q&Aの時間で感じたのは、国毎というよりも、やっぱりひとりひとりの受け止め方が違うことがおもしろいと思いました。いつも、映画には余白があるべきだし、ひとりひとり捉え方、受け止め方が違う作品であるべきだなって思っており、今回の作品もそういう風に仕上がっていてよかったな、と安堵しております。

内田監督は第40回ロッテルダム国際映画祭で『歓待』(2010)の深田晃司監督と杉野希妃さんに会ったそうで、本作『おだやかな日常』では、古舘寛治さんの電気屋のシーンで深田晃司監督も登場し、劇場内に笑いが広がりました。『歓待』は演劇性の強い映画であったかと思います。特にスカイツリーが映っている東京下町の映画だけれども、舞台をどこか違う自分の街に移しても、自分の街の問題として観ることのできるといった、普遍的なフォーマットを持っているというように感じました。

『歓待』は私と小野プロデューサーの制作会社と深田晃司監督との企画で、深田監督が青年団に所属されているので、青年団の方にたくさん出演していただきました。深田さんは舞台をつくりたい方ではなくて、平田オリザさんの演劇論を映画に取り入れたらもっとナチュラルな芝居をさせられるのではないか、ということで青年団にいらっしゃる方です。多分映画をつくるときも、舞台というのを全く意識はされていないと思うんですが、家が舞台になっている関係上、空間的なカメラの使い方だったりが、多分演劇的に観えたのかな、と思うんです。監督の目指しているものが舞台的なものではなかったと思います。

©odayaka film partners



では杉野さんにとって、『おだやかな日常』はこのシーンはとても映画的だな、映画でしかできないな、というシーンがあったら教えてください。

この間、私はエストニアの映画祭(第16回タリン・ブラック・ナイト映画祭でクリス・フジワラさんなど映画批評家の方々と一緒に審査させていただいていたときに、映画って何か、映画的って何か、ということについてお話をしていたんです。まず、「映画的」という言葉自体がもしかしたらナンセンスなのかもしれないねって。じゃあ、「映画」って何なんだろう?と考えていたときに、TVだったら、見せて、見せて、見せる。情報を与え続けて、見えない何かを想像させる余地を与えないと思うんです。映画は、隠して、隠して、観客に想像させる。「隠す」表現というのが映画なんじゃないか、という話になりました。個人的にもそう思っていて、余白のある映画に惹かれます。

この『おだやかな日常』という作品に関しては、私が個人的に好きなシーンはいろいろあるんですが。映画としておもしろいな、と思うのは、例えば、サエコが幼稚園でママさん方3人と口論するシーンで、ドキュメンタリー的に撮っているので、カメラがあっちいったり、こっちにいったりするんです。人がしゃべっているときに、話の受け手の顔だけをずっと映し、話し手本人の顔は映していない部分も多いんです。言っている本人がどんな顔して言っているんだろうって、その顔を想像しながら観るのが好きなので、そういうシーンがあるとすごく興奮します。

あと、ユカコとタツヤ(山本剛史)がラストで電話しながら、タツヤの言ったことを受けてユカコが泣くシーンは、大好きなシーンの一つです。彼女の気持ちをタツヤがどれくらい理解しているかは画には映らないですが、タツヤがこのとき、この瞬間に、どんな顔をしているんだろう?って勝手に想像するのが私は好きです。TVには多分、そういう余白や余韻がないのではないでしょうか。



ひとりの表現者としてあるために

ところで、そもそもどのようにしてプロデューサーとして関わるようになったのですか?

私は韓国でデビューして、一年の留学を終えて帰国後に芸能事務所に入りました。今所属している事務所にはとてもお世話になっていて、自由にやらせてもらっているんですが、日本の映画界や芸能界のシステムの中では、役者はどうしても受け身にならざるをえない体制になっているんですね。それは築き上げられてきたものだから仕方ないものだとは思うんです。

でも役者って、表現者であって、アーティストだと思っているので、役者がしたいと思っている作品を自分で作ってもいいのではないか、と個人的には思っています。受け身ではなく、もっと自分で発信するにはどうしたらいいか。私自身、クレイジーなくらい映画が好きなので、自分で自分が出てみたい映画をつくる、というのはごく自然なあり方なのではないかな、という発想で、2007年の後半くらいからプロデューサーとして関わるようになりました。

釜山国際映画祭のアジアン・プロジェクト・マーケットでは、初監督作品『忘却』(日韓合作)の企画を出されていますが、国際的なマーケットでどういう点を意識されてプレゼンテーションされているんでしょうか。

この作品に関しては脚本が終わっていない段階でしたが、プロデューサーをするにしても、監督をいつかできたとしても、日本でも海外でも通用する作品にしなくては、と私は常に思っています。
低予算でアート作品のような感じになると、最近の日本の製作では自分の身の回りの出来事だけで描かれる私小説的な作品が多いですが、もう少し、社会と世界とつながっているような世界観にするべきだと思います。

運命的なアジア映画との出会い

「アジア・インディーズのミューズ」。去年の東京国際映画祭での特集を後から知り、悔しいな!時を逃したな、と思いました。浅野忠信さんがタイ映画に出演された後、ちょっとアジア映画ブームが落ち着いてしまっていたところで、杉野さんというミューズの到来に、これで日本でももっとアジア映画を観る機会が増える!って思うと本当に嬉しいんです。
私は大学でカンボジア語を勉強していて、それも珍しいことだと思いますが、杉野さんはなぜ、マレーシアのヤスミン・アフマド監督と一緒に仕事をするようになったんですか?


これは本当に偶然のことだったんです。韓国留学から帰国したのが2006年のことです。その年の東京国際映画祭で、私は勘違いして、自分が出た『絶対の愛』(2006年、キム・ギドク監督)が上映されると思って観に行ったんです。実際には上映されていなかったんですけれど。劇場で手持ち無沙汰で、観れない、観れない、って意気消沈してたんですね。そんな時に、見知らぬおじさまが「チケット余ったから観る?」って渡してくださったのがヤスミンの『ムクシン』(2006)という作品だったんです。

マレーシア映画?聞いたことないけど???東南アジアの映画とか、あまり観ていないけど、、、と思いながら観てみたら、もうそれが傑作で!びっくりしました。Q&Aも観ていたら、監督の人間としての大きさみたいなものをびしばし感じて。「はあ、すごい監督さんがマレーシアにいるんだ!」って感動しました。

その1年後に『クリアネス』(2007)に出たときに、函館港イルミナシオン映画祭に篠原哲雄監督、細田よしひこさん、プロデューサーの一人である小野光輔プロデューサーと4人で参加したんですね。小野さんとは今制作会社を一緒にしていますが、『クリアネス』撮影中はまだあまり話したことがなくて、よく知らなかったんです。そこでアジア映画の話に小野さんとなって、ヤスミン・アフマド監督が日本で撮りたがっているんだよね、という話を聞いて。えー!って。「一年前にその監督の作品を観ています、もし日本で撮影されるんだったら、私携わりたいです!」って思わず言っちゃって。そこからプロデューサーの仕事が始まりました。不思議なご縁なんです。

これは運命ですね!

本当に運命としか思えないですね。ヤスミンと企画をしていた『ワスレナグサ』は彼女の急逝でできなくなりましたが、ヤスミンと仕事をしていたおかげでいろいろな監督さんとも知り合えて、今の自分のお仕事ができています。そういう意味でヤスミンの存在は大きいですし、表現者としてのヤスミンは私にとって多分永遠に現れないくらい偉大で、私の心にいつもより添ってくれている方ですね。



フィリピンにはすごい監督がいる!

公開待機中であるフィリピンのアドルフォ・アリックス・ジュニア監督との『Kalayaan』(2012)は、タイのアーナンダ・エヴァリンハム主演で、アジアの新しい時代を感じています。こちらについては、どのような経緯で杉野さんが女優として、プロデューサーとして加わることになったのでしょうか?

2010年に『マジック&ロス』という作品で、釜山国際映画祭でワールドプレミアがあったんときに釜山のプログラム・ディレクターであるキム・ジソクさんに「今一番注目しているアジアの監督」について伺ったら、アドルフォ監督の『Chassis』(2010)という映画を釜山でやるから観てみなよ、と言われて観たんです。

私も知らない監督だったのですが、これがもう衝撃的な作品で!かなり低予算でつくったらしいんですが、Black&Whiteの、車輪の下で生活しているある女性のある期間を描いた作品で、強烈な作品だったんです。うわあ、すごい監督がいる!って思ったんです。その後ロッテルダム国際映画祭で知人に紹介していただく機会があって、福岡[アジアフォーカス映画祭]で再会して仲良くなって。彼の方から合作として企画の話があり、できれば女優としても、プロデューサーとしても参加してもらえないか、というオファーをいただいて参加しました。でも、がっつり私が何かしたわけではないので、次はがっつり何かやろうという話を今しています。

東京フィルメックスとの連携プログラムである「タレントキャンパス・トーキョー」には、アジアのこれからを期待される映画監督、プロデューサーのタレントが参加していました。ご自身の舞台挨拶前の時間でちょこっと参加されていらっしゃいましたね。今、日本ではアジア映画を観ることのできる機会が限られている中で、杉野さんにとって、今おススメのアジア映画はありますか?

やっぱりフィリピン映画、タイ映画は勢いが半端ないです。この間釜山国際映画祭で観た『Six Degrees of Separation from Lilia Cuntapay』(2011年、アントワネット・ジャダワン監督の初長編作品でリリア・カンタペイは主演女優。)が強烈でした。これはモキュメンタリーなんですよ。モキュメンタリーというのは、ドキュメンタリー風のフィクションで、フェイクドキュメンタリーとも言われています。脇役ばかりをずっとしているある女優が、日本で言うところのアカデミー賞の助演女優賞にノミネートされたけれども、一般の人たちはみんな彼女のことを「顔は知っているけれども名前が出てこない」という女優として認識している。そういった社会からはじかれている孤独感みたいなものや、本人のエキセントリックなキャラクターがすごくおもしろくって。本人が本人役で出ていて、敢えて設定を与えてフィクション・ドキュメンタリーとして描いているんですが、こんな新しい視点で映画ってつくれるんだ!と刺激を受けました。この監督もこの作品で初めて知りました。

もっといろいろあるんですよ!アジア映画の話をしだしたらキリがないんです。お金があったら本当は配給もしたいんです!

杉野希妃さんとお話していると、世界各地の映画祭をガイドしていただいているように、枝葉がどんどん広がって、どの分野の話も尽きず、もっと伺いたい、もっと話したい!というところでタイムアウトでした。機会新たにアジア映画のイベントなどで再びお会いできる日を楽しみにしております!



『おだやかな日常』
12月22日(土)ユーロスペースほかにて公開
和エンタテインメント配給 
監督:内田伸輝
出演:杉野希妃、篠原友希子、山本剛史、渡辺杏実、小柳友、渡辺真起子、山田真歩、寺島進
上映時間:102分
公式サイト: http://www.odayakafilm.com/

POSTED BY
Junko HONMA
Junko HONMA / Movie Journalist
「クリエイターとのダイアローグからそのさきへ。そんな“場”をつくっていけたら。」
2012年より映画の上映会や配信の運営、PR、TVドキュメンタリーの制作の現場を経て、“ことばで伝える”ことに立ち返り、表現を取り巻く状況が大きく変わりゆく時代の中で国内外で“領域”を越えて、新たな取り組みに挑戦しつづけるクリエイターのいまをお伝えします。本サイト「theatre tokyo/ creators park スペシャルインタビュー」ほか、ウェブマガジン『HYPEBEAST.JP』ではライフスタイル、カルチャーの翻訳を担当中。大阪の制作、エキストラで初参加させていただいた、リム・カーワイ監督作品『Fly Me to Minami~恋するミナミ~』DVD/iTunes配信も絶賛発売中!!