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イベントリポート:東京フィルメックス 「タレント・キャンパス・トーキョー12」オープン・キャンパス「アピチャッポン・ウィーラセタクン監督との対話」

2013.02.12 up
東京フィルメックス 「タレント・キャンパス・トーキョー12」オープン・キャンパス「アピチャッポン・ウィーラセタクン監督との対話」
       

text : 本間順子 (creator’s park)

現在開幕中のベルリン国際映画祭。
2003年より毎年開催されているタレント・キャンパスは、世界中から300名余りが参加する若き映像クリエイターのネットワーキング・プラットフォーム。「ベルリン国際映画祭」と提携し、ブエノスアイレス(アルゼンチン)、グアダラハラ(メキシコ)、ダーバン(南アフリカ)、サラエヴォ(ボスニア・ヘルツェゴビナ)の世界各都市の映画祭でも開催されており、アジアにおける「次世代の巨匠」になる可能性を秘めた「才能(タレント)」を育成することを目的として、東京フィルメックスでも2010年よりスタート。

「第13 回東京フィルメックス」開幕中の昨年11月26 日(月)から12月2日(日)まで開催されていた「タレント・キャンパス・トーキョー12」では、メイン講師にアピチャッポン・ウィーラセタクン氏(映画監督)、舒琪[シュウ・ケイ]氏(映画監督、プロデューサー)、フィリップ・ボベール氏(コ・プロダクション・オフィス代表)を迎え、映画監督やプロデューサーを目指すアジアから選抜された9カ国15名の人材(ネクスト・マスター)が東京に集まり、世界の第一線で活躍する講師陣による講義や企画プレゼンに参加。世界で活躍していくためのノウハウや、参加者同士や映画祭ゲストとの交流を通じて国際的なネットワークを構築する絶好の機会となる。

選抜された参加者のみを対象として実施している「タレント・キャンパス」。本プロジェクトの魅力をより多くの人へ広め、さらには来年のベルリンと東京でのタレント・キャンパスへの参加者を広く募ることを目的として、11月29日(木)、一般に開かれたオープン・キャンパスが開催された。

CREATOR’S PARKでは、第一部「アピチャッポン監督と対話」(聞き手:市山尚三氏、東京フィルメックス プログラム・ディレクター)を11月26日に上映された『メコンホテル』Q&Aセッションと合わせてリポートする。



タレント・キャンパス・トーキョー12の講師とネクスト・マスター15名



まず聞き手の市山氏より「タレント・キャンパスの講師として、どうでしたか?」と聞かれ、「自分自身も若く感じました」というアピチャッポン監督の言葉に会場が笑いに包まれた。

「私にとっても学びのプロセスでした。タレントの15の企画から多くのことを学び、
その発展のプロセスが私の力にもなってくれました。」

オープン・キャンパスの前のセッションで開催されていた「タレント・キャンパス・トーキョー 公開プレゼンテーション」では、タレント15名の企画が発表された。
(今回「タレント・キャンパス・トーキョー12 アウォード」では、中国から参加のプロデューサー、リ・シャンシャンさんによる湖南省の高速道路建設を巡るドキュメンタリー、『The Road(原題)』が受賞。)

アメリカ在住の中国人監督イアン・ワンさんが製作中のオムニバス・ブラックコメディ『THE DEADLINE(原題)』は、アジア系移民として監督自身が経験した「アメリカン・ドリーム」の幻想と現実を踏まえた内容。アメリカ初の女性大統領が移民を希望する人に向けたビデオコンテスト「なぜ自分はひとりのアメリカ人となるに値するのか」を開催し、優秀作品にはグリーンカードが授与されるという設定で、4人のアジアからの応募者の異なる応募動機をビデオ作品制作過程の中でフォーカスしている。そのうち日本からの応募者として、放射能汚染のない土地を求める頑固な福島の酪農家・タナカユウジ(古舘寛治さん)が登場する。


アピチャッポン監督は、イアン監督に「4人のストーリーを一話ずつ見せるのか?あるいはミックスさせるのか?」と質問し、また、「もっと多くの人のストーリーが観たいので、例えば他の人にも呼びかけてYoutubeでアップロードしていける形式はどうだろうか?」と提案。


        『メコンホテル』



このアピチャッポン監督の質問から想起されたのは、『メコンホテル』Q&Aセッションで、ラオスからの難民に映画の中で触れられた理由について、「越境するものに関心があり、『メコンホテル』は”境界”についての映画である」と答えられていたこと。


「私が育った土地であるメコン河はタイとラオスの国境であり、そこには暴力的な事件や歴史もありました。登場する女優の父親がラオス人でもある。ラオスからの難民は1970年代に流入しました。また、タイでは河に散骨する習わしもあり、父親の遺灰をメコン河で散骨していることもあり、生と死、肉体的なものと精神的なもの、イマジネーションとリアリティ、そしてドキュメンタリーとフィクションなど、複数の”境界”を意識している映画なのです。」

また、アピチャッポン監督のもう一つの重要な視点として、歴史的背景を含んだ「社会から疎外された者たち」への眼差しが挙げられる。オープン・キャンパスでの会場からの質問で、「短編『ヴァンパイア』も含め、『メコンホテル』は民話に基づいて、あるいは怪奇的な趣味によって描かれているのか?」という問いに対して、次のように答えている。

「この妖怪は女性に憑依することでよく知られている妖怪で、最近はあまり聞かれなくなってきています。この妖怪は社会から疎外された者たちであり、移民労働者やホモ・セクシャルの描写として、また、中央から見過ごされているタイ東北部の疎外されている状況といったあらゆるレイヤーを盛り込みました。」


『メコンホテル』



『メコンホテル』Q&Aセッションの始まりにアピチャッポン監督から「この映画は600年という時間の中で輪廻転生を繰り返している男性と、それを追いかけ続けている女の子の物語」でもあると伝えられた。オープン・キャンパスでの会場では、こんな質問も。
「『ブンミおじさんの森』[2010年カンヌ国際映画祭パルムドール賞受賞]、『メコンホテル』には仏教が多く反映されていると思います。もし監督がイスラム教徒かキリスト教徒に生まれ変わったら?」


「私は自分自身の人生において、輪廻を信じていないのです。タイ社会にある事実を映したものなのです。死後何が起きるかわからないという中での恐怖を社会的にコントロールするものが宗教だと思います。仏陀はスーパーマンではありません。私自身はもう少し現実的で、科学的です。仏陀の哲学で言ってみれば、全ての人が常に生まれ変わっていると言えるでしょう。5分前の自分も、5分後の自分も違います。映画は明らかに記憶を凝固させることができます。映画とはそのシミュレーションを出したり、引いたりできる非常に興味深い形態なのです。」

続いて、オープン・キャンパスでは学生から資金調達に関する質問が挙った。

「資金調達の方法はプロジェクトによって異なります。映画『ブンミおじさんの森』は、アートプロジェクトの1つのコンポーネントとして、ギャラリーや美術館によるファンディングで、ビデオインスタレーション、短編、本とともに製作されました。その多くはヨーロッパからのファンディングでした。これはアートとしての側面から映画の製作費を引き出すという、新しい方法となりました。」

学生からの「才能のない人はどうすればよいか?」との質問に、「自分の映画を嫌いな人ばかりです。だから自分には才能がないと思います。」と会場を笑わせながらも、『ブンミおじさんの森』では低予算ながらも2年間を資金調達に要したアピチャッポン監督は丁寧に答えてくれる。

「自分の映画のターゲットをしっかりと見つける必要があります。才能がなくても成功している例が世の中にはたくさんあると思います。(一同笑い)それから、日本のような先進国は難しいことなんですが、いわゆる「第三世界」とされている国について、フランス政府には映画製作への助成があります。」


オープン・キャンパスにて質疑に応答するアピチャッポン監督



資金調達に関連して、『メコンホテル』Q&Aセッションで、アピチャッポン監督は「ドキュメンタリーとフィクション」について興味深いことを語っている。

「『メコンホテル』はフランスのARTEというテレビ局のドキュメンタリー部からの資金で製作しています。この映画は、俳優があるシーンのリハーサルで演技をしているところをドキュメントしているのです。フィクションを演じると同時に、それをカメラで捉えていくという方法が、現実を組み立てていくという方法が、映画のリアリティでもあります。」

また、ノン・プロフェッショナルな俳優を起用している理由について。

「彼らには彼らの生活があります。デザイナーだったり、コレクターだったり、彼らの職業は様々です。私は彼らの人生を追い続けています。彼らの人生をキャプチャーしているのです。以前、プロフェッショナルの俳優を起用しようとしたこともありましたが、作品のロケーションがあまりにローカルで、その俳優に合わなかったのです。おそらく、プロフェッショナルの俳優と仕事をしたかったら、私の個人的な体験のない、タイ以外の国で仕事をする必要があるかもしれません。」

『メコンホテル』Q&Aセッションの冒頭で、「これは自分にとって、私的なファミリー・ムービーのような、”再会”の映画だった」と語ったアピチャッポン監督はこのロケーションを選んだ理由として次のように答えている。

「ずっと私の映画に出演してくれている女優が事故でけがをしていた時に、お見舞いでこの地を訪問したことがありました。その時の経験をポートレートしたいと思いました。しかし、何もなくて退屈なところではあったので、ホテルを一つの舞台設定として使おうと思い立ったのです。それから、映画でギターを演奏してくれているのは、20年以上ぶりに会った高校の同級生です。音楽的な詩のようにつくってくれました。この音楽もまた友情の架け橋となってくれ、また、目の前に流れる河のようでもありました。」

その土地に固有の、極私的な物語性をアピチャッポン監督は映画として、どのように社会に開かれたものとしているのか。

今年3月、タイ・プーケット、ヤオ・ノイ島のラグジュアリーなリゾートにて、第一回フィルム・オン・ザ・ロックス・ヤオ・ノイ映画祭が開催され、若手映像作家とのワークショップも開催された。今後もそのような取り組みに関わっていくか、という質問への答えに、アピチャッポン監督の映画と社会への眼差しがよく現れている。

「これはタイの企業家によって開催されました。ここは世界一ラグジュアリーなリゾートで、英国女優ティルダ・スウィントンやクロエ・セヴィニーなど豪華なスターが参加していました。彼らは友人ですが、この映画祭はあまりにエクスクルーシブなものでした。私としては、もしこういう映画祭をするのであれば、場所を変えて、もっといろいろな人が参加できる形で行いたいですね。」

アピチャッポン監督は現在若手監督の作品をプロデュース中とのことで、今後の展開が非常に楽しみである。




『メコンホテル』



『メコンホテル』 Mekong Hotel
タイ、イギリス、フランス / 2012 / 61分
監督:アピチャッポン・ウィーラセタクン




アピチャッポン・ウィーラセタクン (Apichatpong WEERASETHAKUL)

1970年 バンコクに生まれる。タイ東北部コンケーン県で育ち、コンケーン大学にて建築を専攻。
シカゴ美術学校へ留学し、映画制作の修士号を取得。
『真昼の不思議な物体』(2000)「山形国際ドキュメンタリー映画祭」 インターナショナル・コンペティション 優秀賞ほか。 『ブリスフリー・ユアーズ』(2002)「カンヌ映画祭」 ある視点部門グランプリ、「東京フィルメックス」 最優秀作品賞ほか。 『アイアン・プッシーの大冒険』(2003) 『トロピカル・マラディ』(2004)「カンヌ映画祭」 審査員賞、「東京フィルメックス」 最優秀作品賞ほか各国で受賞。 『世紀の光』(2006) ほか、短編映画多数。 映像インスタレーションでも国際的に活躍しており、「メディア・シティ・ソウル2010」や「ヨコハマ トリエンナーレ2011」「ドクメンタ13」などの国際展に出品。本文でも紹介されている「プリミティブ」プロジェクトでは、映像インスタレーション、短編映画、アート本、長編映画で構成され、その映画『ブンミおじさんの森』(2010)で、「カンヌ国際映画祭」パルムドール賞受賞。



【作品解説】
2012年カンヌ国際映画祭出品作品。タイ、メコン川に面した静かなホテル。対岸はラオスである。アピチャッポン・ウィーラセタクン監督と撮影隊が「エクスタシー・ガーデン」と題する映画のリハーサルを行っている。「エクスタシー・ガーデン」は、2002年に脚本を書いたものの、資金集めが難航して映画化されなかったアピチャッポン監督の企画である。ピー・ポップ(「ピー」はタイ語で精霊、幽霊や妖怪を意味する。)というイサーン地方(ラオス、カンボジアに接するタイ東北地方。)に特有の妖怪で、女性の姿をして男性に接近し、その内蔵を摑み取って貪り喰らう幽霊という怪奇譚に、600年にわたって輪廻転生している男とその男をずっと追いかけている女の物語が重ねられ、メコン河の中で彼らの魂の記憶が永遠に再生されているという物語となっている。そのリハーサルの合間に俳優たちは様々な話をするが、本作は昨年10月、バンコクが洪水に見舞われていた時期に撮影され、劇中の会話にもその様子が語られている。

【ピー・ポップ映画というタイ怪奇映画のジャンルについて】
四方田犬彦著『怪奇映画天国アジア』(2009年、白水社刊)によれば、タイでは悪霊は僧侶や呪術師に捕獲され、壷や竹筒に封じ込められ、埋葬されたり、河に沈められる。また、イサーンの中心都市コンケーン県の村をフィールドとして調査している人類学者津村文彦の研究にも触れ、1999年に実際に起きたピー・ポップをめぐる事件があり、ピー・ポップは村落共同体における排除の原理と密接に関連していると指摘されている。
90年代のタイ映画低迷期に次々と製作されたが、バンコクのような都会の映画館で上映されることはほとんどなく、もっぱら地方都市の小さな映画館や村落の屋外上映、寺の祭礼での上映などを通して、地方の観客を対象として製作されていた。
しかし、バンコク郊外に伝わる怪奇譚である、ノンスィー・ニミブット監督『ナンナーク』(1999年)の国内外での成功から、2000年代にはバンコクのシネコンでもピー・ポップ映画のリメイク版の公開が続いた。



タレント・キャンパス・トーキョー

主催:
東京都 アーツカウンシル東京・東京文化発信プロジェクト室(公益財団法人東京都歴史文化財団)
特定非営利活動法人東京フィルメックス実行委員会

東京フィルメックス        http://filmex.net/
Talent Campus Tokyo      http://talentcampustokyo.com
Berlinale Talent Campus    http://www.berlinale-talentcampus.de/campus/event/coveragex

POSTED BY
Mitsutomo KAWAMURA
Mitsutomo KAWAMURA
1977年生まれ。洋服だけでなく、あらゆるジャンルの"表現者"と共にシーンを創る、
そして紡ぐということをコンセプトに2006年にエージェント4Kを設立。