CP -ONLINE REPORT MEDIA from TOKYO・CREATORS PARK- 東京・クリエイターズパーク

  • YouTube
  • facebook
  • twitter
  • RSS
TOP | NEWS

孤高の女性写真家をめぐるドキュメンタリー『ヴィヴィアン・マイヤーを探して』

2015.10.05 up
Vivian Maier Self-Portrait
       

ある特定の時代の、特定の風景が映っている写真や映像がないか、仕事で探すことがある。

アマチュア歴史家ジョン・マルーフは2007年に地元シカゴの歴史の本を執筆しているときに、古いシカゴの街並みの写真を探していて、中古の不用品を扱う地元のオークションで写真のネガいっぱいの箱を競り落とした。
当時執筆中の歴史の本に結局その写真は使用しなかったが、今のように誰もが手軽にタグ付けをして写真を撮ることが適わなかった時代の写真ということ以上の、ストリートフォトとしての芸術的価値をマルーフはその写真から感じていた。
ヴィヴィアン・マイヤーという撮影者の名前をインターネットで検索してもヒットしない。素晴らしい才能を持ちながら、生前自身の写真を発表することのなかった人物のネガスキャンした写真をブログに投稿すると、その写真はかなりの反響を呼ぶ。マルーフは彼女の写真をさらに収集し続けた。

2009年に再びインターネットで検索してヒットした死亡記事を手がかりに、生前のヴィヴィアン・マイヤーを知る人物にたどり着き、思わぬことを告げられる。「彼女は自分のナニー(住み込みの子守り)だった」と。マルーフは遺品の整理を手伝い、ネガや大量の未現像のフィルムのほか、8mmや16mmフィルム、カセットテープ、そして彼女が捨てることのなかった、領収書や新聞の切り抜きなど、ありとあらゆるものを管理することに。
それらのネガの中には、セルフポートレートも多く含まれ、本人の声も吹き込まれているカセットテープすらあった。あるときには、ジャーナリストのように、街頭インタビューまでも決行していた。

ストリートフォトというのは、なかなか難しい。眼前にカメラを向けられて、撮られることをかまわないとする被写体なら運がいい。拒絶をされたり、怒号を飛ばされることにも怯まずレンズを向け続ける強さも必要とされる。1970年代に一眼レフを使うようになるまでは、彼女はファインダーを上から覗き込む二眼レフカメラ、ローライフレックスによって、撮りたい瞬間を自分のものとしていたようだ。ニューヨークやシカゴの社会の最底辺から8か月もの長期休暇で世界旅行に訪れた東南アジアや中東、南アメリカまで、風景写真やポートレート、ストリートにいる人々を、強い好奇心とともに撮り続けた。

現代のソーシャルネットワークとスマートフォンの写真アプリにも顕著なように、写真を撮るという行為は、人に見せたいから撮る、より多くの人に評価してもらえるように、いかに美しく、面白い写真として撮ることができるか、という自己表現、自己顕示欲を全うさせるための手段であるとも言える。
ヴィヴィアン・マイヤーは自身の世界への、人間への眼差し、その被写体を捉える自身の写真の美学に間違いのないことを自分で認識していながら、なぜ発表することのないまま、一生を終えることになったのか?

「自分のことを語らない人間だった」にもかかわらず、遺品によって、また、関係者の証言によって、浮かび上がってくるヴィヴィアン・マイヤー(1926-2009)という女性の一生。ウィットに富んだその写真が世界で広く賞賛される一方で、若き日に彼女に刻み込まれたであろうキズが、家族との関係性や子守りをしていた家族との関係性の中であぶり出されていく。ジョン・マルーフと同じくシカゴ出身で、マイケル・ムーア監督のアカデミー賞受賞作「ボウリング・フォー・コロンバイン」(02)でも知られるチャーリー・シスケルという本作が初監督作品となる二人の共同監督の手によって、ミステリーに包まれた一人の女性の一生が、たとえその一面でも暗室で焼き付けられる写真のように明らかにされていくこのドキュメンタリーの過程は、スリリングでもあり、その追跡可能性は現代的な恐ろしさをも含んでいる。

20世紀の写真史を塗り替え得たかもしれないヴィヴィアン・マイヤーの15万点以上にものぼる写真はいま、その写真や写真集を販売したり、写真展を開催したりする権利を誰が持つのか、という一連の著作権問題を抱え、現在イリノイ州クック郡の監督下に置かれている。家族や親族との交流を持たず、生涯独身であった彼女が遺言を残さずにこの世を去ったためだ。アメリカではネガを所有していたとしても、そのまま著作権者にはなれない。ヴィヴィアン・マイヤーのネガを多く所有する一人で、その写真集『Vivian Maier:Street Photographer』(2011)が売上全米1位を記録したジョン・マルーフも本作の中で、系譜学者に依頼して彼女の家系をたどっているのもそういった経緯があるからだ。一日も早く著作権問題がクリアとなり、世界中を巡回している彼女の写真展が日本でも開催できる日が来ることを祈るばかりである。



『ヴィヴィアン・マイヤーを探して』(原題:Finding Vivian Maier)

第87回アカデミー賞 長編ドキュメンタリー賞 ノミネート
監督・脚本:ジョン・マルーフ、チャーリー・シスケル/製作総指揮:ジェフ・ガーリン/プロデューサー:ジョン・マルーフ、チャーリー・シスケル/音楽:J・ラルフ/撮影:ジョン・マルーフ/編集:アーロン・ウィッケンデン
2013年/アメリカ映画/83分
提供:ニューセレクト 配給:アルバトロス・フィルム
© 2013 RAVINE PICTURES, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

公式HP:http://vivianmaier-movie.com

10月10日[土]より シアター・イメージフォーラムほか全国順次ロードショー




『ヴィヴィアン・マイヤーを探して』©Vivian Maier_Maloof Collection

POSTED BY
Junko HONMA
Junko HONMA / Movie Journalist
「クリエイターとのダイアローグからそのさきへ。そんな“場”をつくっていけたら。」
2012年より映画の上映会や配信の運営、PR、TVドキュメンタリーの制作の現場を経て、“ことばで伝える”ことに立ち返り、表現を取り巻く状況が大きく変わりゆく時代の中で国内外で“領域”を越えて、新たな取り組みに挑戦しつづけるクリエイターのいまをお伝えします。本サイト「theatre tokyo/ creators park スペシャルインタビュー」ほか、ウェブマガジン『HYPEBEAST.JP』ではライフスタイル、カルチャーの翻訳を担当中。大阪の制作、エキストラで初参加させていただいた、リム・カーワイ監督作品『Fly Me to Minami~恋するミナミ~』DVD/iTunes配信も絶賛発売中!!