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結婚とその月日、青春のポップスのまにまに漂う映画『さざなみ』

2016.04.08 up
さざなみmain
       

イギリスの小さな地方都市に暮らすジェフとケイト。
結婚45周年のパーティまでの1週間は、ふたりにとっていつもと変わらないおだやかな日常のはずだった。夫の元に一通の手紙が届くまでは。
夫はかつて雪山の山岳事故で恋人を亡くしていた。その手紙は、その恋人が温暖化によって、氷河の中から当時のままの姿で発見され、遺体確認のためにスイスへ来てほしいという警察からの知らせだった。
凍結させていた愛の記憶も溶け出したかのように、夫はかつての恋人「ぼくのカチャ」への追憶へと、うずもれていく。何かにつけて、カチャのことで頭がいっぱいになりつつも、妻と出会ったダンスホールで、その美しさに恋に落ちたことを人生の喜びとして語る夫。だが、妻の心のうちでは、すでに亡くなっているその女への嫉妬心や長年連れ添った夫への不信感がさざなみのように引いては押し寄せ、むしろこちら側にいるはずの自分自身の方が氷河のクレバスの中に突き落とされ、その孤独な感情にロックされてしまったかのようだった。
奇しくも同じ年にジェフは当時の恋人を亡くし、ケイトは母を亡くすという不幸をお互いが経験していたにもかかわらず、長年そのことは共有されずに過ごしてきたという現実。ふたりで築いてきたと信じたこの45年は、いったい何だったのだろうか?

ふたりを演じたシャーロット・ランプリングとトム・コートネイが2015年ベルリン国際映画祭で銀熊賞(女優賞、男優賞)をダブル受賞した本作。デヴィッド・コンスタンティンの短編小説「In Another Country」を原作に、アンドリュー・ヘイ監督はいまの物語とするために、夫婦の世代を、The Plattersの「煙が目にしみる」を中心に60年代ポップスのヒットナンバーとともに描いている。
彼らが出会った頃の若かりし姿を観てみたくて、フィルモグラフィを辿ってみるのも面白い。「えらく美人」で、「本当に格好よかった」ふたりは、かつて上流社会とワーキングクラスといった階級社会や男女の恋愛や性愛について、現在の世界からは想像もできないくらい保守的だったイギリスに、新しい時代をもたらした、ユースカルチャー、ファッションの象徴だった。ブリティッシュ・ニュー・ウェイヴの代表作『長距離ランナーの孤独』(トニー・リチャードソン監督、’62)、ロシア革命に生きる若きリーダーを演じた『ドクトル・ジバゴ』(デビッド・リーン監督、’65)などによって注目された若き日のトム。スウィンギング・ロンドンのアイコンとしてスクリーンデビューを飾った『ナック』(リチャード・レスター監督、’65)、強制収容所でナチス親衛隊将校に弄ばれたユダヤ人女性を演じた『愛の嵐』(リリアーナ・カヴァーニ、’73)のシャーロット。そして最近ではふたりそろって出演している『リスボンに誘われて』(ビレ・アウグスト監督、’13)。彼らのフィルモグラフィ自体がイギリスの、そしてヨーロッパの現代史のなかのある視点としても観ることができるのだが、作品、設定は違えども、本作の夫役、妻役にも通じる、これまで演じてきた役どころが強く放つ一貫した個性を、年を重ねていく彼らの姿の中に作品を横断して観ることができるのは、70歳を超えるふたりのベテラン俳優のキャリアが持つ凄みというもの。『まぼろし』(フランソワ・オゾン監督、’01)で、ある日突然夫が失踪したことで、夫の存在の喪失と、愛する夫が語らなかった現実から夫婦の間に横たわる闇に直面する中年の妻を演じたシャーロットが、さらに時を経て42歳のアンドリュー・ヘイ監督とともに本作『さざなみ』で私たちに観せる、妻ケイトの思いとは?その多くはセリフでは語られない。ケイトの表情や身体からあふれる感情とサントラに乗せられた心情の変化をぜひとも見逃さないでほしい。



『さざなみ』

監督:アンドリュー・ヘイ  原作:デヴィッド・コンスタンティン(「In Another Country」)
出演:シャーロット・ランプリング、トム・コートネイ
配給:彩プロ  協力:朝日新聞社  後援:ブリティッシュ・カウンシル
宣伝:テレザとサニー、梶谷有里
2015年/イギリス/英語/カラー/ビスタ/5.1Ch/95分/原題:45 YEARS

©The Bureau Film Company Limited, Channel Four Television Corporation and The British Film Institute 2014

公式HP:http://sazanami.ayapro.ne.jp/

2016.4.9(土)よりシネスイッチ銀座ほか全国順次公開!

POSTED BY
Junko HONMA
Junko HONMA / Movie Journalist
「クリエイターとのダイアローグからそのさきへ。そんな“場”をつくっていけたら。」
2012年より映画の上映会や配信の運営、PR、TVドキュメンタリーの制作の現場を経て、“ことばで伝える”ことに立ち返り、表現を取り巻く状況が大きく変わりゆく時代の中で国内外で“領域”を越えて、新たな取り組みに挑戦しつづけるクリエイターのいまをお伝えします。本サイト「theatre tokyo/ creators park スペシャルインタビュー」ほか、ウェブマガジン『HYPEBEAST.JP』ではライフスタイル、カルチャーの翻訳を担当中。大阪の制作、エキストラで初参加させていただいた、リム・カーワイ監督作品『Fly Me to Minami~恋するミナミ~』DVD/iTunes配信も絶賛発売中!!