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テクノロジーの可能性:ALSと生きる『ギフト 僕がきみに残せるもの』

2017.08.18 up
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世界で約40万人、日本で約9200人を超えるといわれる進行性の難病ALS(筋萎縮性側索硬化症)。もし自分がALSの発症を今日宣告されたら、一般的に診断から2~5年とされる平均余命を目の前にして、何を「ギフト」とするだろう?

2005年8月にアメリカ史上最大級のハリケーン”カトリーナ”が、壊滅的な被害をもたらしたニューオーリンズ。アメリカン・フットボールNFLのニューオーリンズ・セインツの本拠地スーパードームは、被災した市民の避難所となった。翌年2006年9月に戻って来たセインツの災害後初のホームゲームで、スティーヴ・グリーソンは劇的な勝利をもたらし、特別なヒーローとして人々の心に刻まれた。2008年にミシェル・ヴァリスコと結婚し、同年、現役を引退。2011年、スティーヴは体に異変を感じ始め、ALSを宣告される。そしてミシェルの妊娠。「僕という人間を知る材料をたくさん残したい」とスティーヴは生まれてくるまだ見ぬ我が子のために、「300秒」というタイトルでビデオダイアリーを撮り始め、母と離婚した父親へのインタビューをくり返しながら理想の父親像を模索していく。2012年、スティーヴの旧友であり、地元のフィルムメーカーであったデヴィッド・リーとタイ・ミントン=スモールが住み込みで介助者となって撮影に加わり、さらに2015年3月にドキュメンタリー作家クレイ・トゥイールが監督として参加し、1500時間に及ぶ素材から本作『ギフト 僕がきみに残せるもの』がつくられた。監督自身、姉が多発性硬化症という難病を抱えていたことから共鳴することがあったという。

スティーヴは「白旗は揚げない」というスピリットで、診断から9か月後には、ALSの啓蒙とALSと診断された人の人生を応援する財団チーム・グリーソンを設立し、誰もが豊かな人生を続けていけるように、「体が動かせなくても、外に出て冒険してほしい」とサービスや機器を提供し始めた。視線入力装置で文字を入力し、自身の声を録り溜めて、発話には音声合成機器を利用していたグリーソンは、2013年、ALSや脳性まひなどのコミュニケーションに障害のある人の音声合成機器が公的医療保険制度の適用対象外の危機を迎えた時に、保健福祉省長官に保険適用となるよう直訴し、その法案はスティーヴ・グリーソン法としてオバマ政権下で承認された。本作はパーソナルなビデオダイアリーだからこそ、スティーヴと父との、妻ミシェルと夫スティーヴとの葛藤もまた、そのまま映されている。父となったスティーヴの息子への思いとともに、本作のもう一つの核としてあるのは、パブリックな存在として、夫スティーヴのALSの啓発活動を行う重要性や意義を理解しつつも、家族の時間も大切にしてほしいと願う妻ミシェルの存在だ。キャッチボールをしてやれないなど、「普通とは違った親子になるだろう」とスティーヴがリヴァースとの関係について考えたように、ミシェルにとってもまた、夫スティーヴの病気の進行を受け止めることは妻としても非常にタフなことでもあるだろう。日々成長するリヴァースの育児と、自身の幼なじみのブレア・ケイシーに介助者として加わってもらいながら、スティーヴのケアに日々献身する中での「悪魔にもなりたくないけど、聖人も嫌。“人間”でいたい」というミシェルの真っ直ぐな言葉に、大きな共感を覚える。

ALSでは呼吸障害の問題から、延命を望むのであれば、気管切開を伴う人工呼吸器を着ける手術を迫られる。アメリカでは高額な経済的な負担や24時間の介護の必要性から95%が人工呼吸器という選択をしない中で、グリーソンは手術して生きることを選び、リヴァースの成長を見守っている。そして息子への「ギフト」としてスタートしたパーソナルなビデオダイアリーが、こうして多くの人への「ギフト」となって、映画『ギフト 僕がきみに残せるもの』として、ようやく日本でも公開される。

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WITH ALSの武藤将胤さんは、本作『ギフト 僕がきみに残せるもの』を観て自らも新しい夢として、電動車いすで子供と遊びたいと語った。ともに登壇した妻・木綿子さんも子供を産むのが夢で、6月に行われた本作のジャパン・プレミアでミシェルと会った時に「一人ではだめ、周りのサポートが必要。絶対、大丈夫!」と勇気をもらったそう。

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元プロボクサーで第19代WBA世界ミドル級王者である竹原慎二さんは、引退後膀胱がんとなり、家族や友人に支えられての闘病を経て、今年6月『見落とされた癌』を出版。

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武藤将胤さんとともに「働く TECH LAB」としてロボットテレワークを活用した未来の働き方の可能性を開拓するプロジェクトを行なっているロボットクリエイターの吉藤オリィさん。

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映画の中でもグリーソンが「ALSで喪ったものは、テクノロジーで取り戻せる」と信じていると語っている。8月5日、劇場公開を前にして特別試写会が都内で開催された。上映後のトークイベントでは、ALS患者ともに開発され、広く社会でコミュニケーションやライフスタイルに新しい可能性をもたらすテクノロジーを紹介。小学校から中学校まで病気で天井だけを見ていた生活の体験から、分身ロボットの研究開発を独自に取り組んできたロボットクリエイターの吉藤オリィさん(株式会社オリィ研究所所長)は、ALSなどで発話に障害がある場合に視線入力装置を使って、五十音表と数字が表示されたデジタル文字盤の中から視線で選択した文字を入力し、音声を読み上げることが可能なデバイス「OriHime eye」のデモンストレーション行った。カメラ、マイク、スピーカーが搭載された分身ロボット「OriHime」を利用すれば、音声を読み上げたり、自分の変わりに手を振るなどのジェスチャー表現を行ったり、会場を見渡し、搭載されたカメラで会場の写真を撮影することもできる。
広告プランナーの武藤将胤(むとう まさたね)さんは、自らALSを発症して4年目で、ALS患者とその家族のQOL向上に貢献するコンテンツ開発・支援活動を行う一般社団法人WITH ALSの代表理事を務めている。音楽が好きで、DJとしても活動を始めていた武藤さんは、日常生活の必要最低限なことだけではなく、クリエイティブな活動も続けていきたいと、メガネ型デバイス「JINS MEME」(ジンズ ミーム)と専用アプリ「JINS MEME BRIDGE」を利用した、すべての人の表現の自由を可能にするloTプラットフォームの創出を目指した開発プロジェクト「Follow your vision」をスタート。ALSで筋力の低下にともなって全体的な身体機能が弱まっていったとしても、正常な機能を保つことができるといわれる眼球の動きに着目し、JINS MEMEのノーズパッドのセンンサーが視線移動や瞬きをした時に発する電気をキャッチすることで、身の回りのデバイスのコントロールを可能にするものだ。
トークイベント終了後、観客もメガネ型デバイス「JINS MEME」を使って、瞬きによってスマートフォンで写真を撮影したり、音楽ストリーミングサービスの「Spotify」で音楽を再生したりと実際に体験。瞬きをJINS MEMEに認識してもらうのに、多少の慣れが必要とのことで、写真を撮ることさえ、最初はけっこう難しい。

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デモンストレーション会場で眼の動きだけでVDJを披露していた武藤さんは、自身が総合プロデューサーを務め、眼でのVDJプレイに挑戦した去年に引き続き、今年もVDJとしても出演する「NO LIMIT, YURE LIFE」というメッセージを音楽と映像で表現し、「MOVE」のきっかけをつくる「MOVE FES.」を来月9月9日に渋谷 WOMBLIVEで開催するということなので、ぜひこちらもチェック!



『ギフト 僕がきみに残せるもの』

監督:クレイ・トゥイール
出演:スティーヴ・グリーソン(元NFL ニューオーリンズ・セインツ)、ミシェル・ヴァリスコ、
エディ・ヴェダー(パール・ジャム)、スコット・フジタ ほか
2016年 / アメリカ / 英語 / 111分 / カラー / 5.1ch / DCP /原題:GLEASON
日本語字幕:額賀深雪  配給:トランスフォーマー

公式サイト:transformer.co.jp/m/gift

8月19日(土)より、ヒューマントラストシネマ有楽町&渋谷他にて全国順次ロードショー


『ギフト 僕がきみに残せるもの』© 2016 Dear Rivers, LLC
POSTED BY
Junko HONMA
Junko HONMA / Movie Journalist
「クリエイターとのダイアローグからそのさきへ。そんな“場”をつくっていけたら。」
2012年より映画の上映会や配信の運営、PR、TVドキュメンタリーの制作の現場を経て、“ことばで伝える”ことに立ち返り、表現を取り巻く状況が大きく変わりゆく時代の中で国内外で“領域”を越えて、新たな取り組みに挑戦しつづけるクリエイターのいまをお伝えします。本サイト「theatre tokyo/ creators park スペシャルインタビュー」ほか、ウェブマガジン『HYPEBEAST.JP』ではライフスタイル、カルチャーの翻訳を担当中。大阪の制作、エキストラで初参加させていただいた、リム・カーワイ監督作品『Fly Me to Minami~恋するミナミ~』DVD/iTunes配信も絶賛発売中!!