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映画『50年後のボクたちは』

2017.09.19 up
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大好きな友だちができると、仲良くなったそのはじまりを何度も何度も反芻する。うれしくて、うれしくて、そのきっかけを何度も何度も反芻する。だって、その「はじまり」の前には、お互いに、あるいは一方が他方に興味を持とうとしていなかったにもかかわらず、ベクトルそのものが変化するということ自体が、非常に興味深い現象だから。

日本でも『14歳、ぼくらの疾走』として翻訳されているヴォルフガング・ヘルンドルフの世界中で愛されている名作を、トルコからの移民の両親のもと、ドイツ、ハンブルクで生まれた名匠ファティ・アキン監督(『太陽に恋して』、『ソウル・キッチン』)がついに映画化し、先週より劇場公開が始まった『50年後のボクたちは』。14歳の主人公マイク(トリスタン・ゲーベル)の場合、ロシアの方からやってきて、転校初日から二日酔いの臭いをぷんぷん漂わせて、その格好や態度の悪さからクラスの誰もがヤバいヤツに違いないと思っているチック(アナンド・バトビレグ・チョローンバータル)との出会いには、できる限り関わり合いになりたくない、そんな嫌悪感が先立っていた。テニスが得意で最高にクールな人なのに、リハビリテーションを必要とするほどのアル中の母親についての作文を授業で発表してしまうマイク自身、クラスで「変人扱い」されるような浮いた存在で、クラスの男子が気にならずにはいられないタチアナの誕生日パーティーの招待状を終業式になっても自分だけがもらえなかったという現実に打ちのめされていた。だから、チックに「そのジャケット、いいね!」と声をかけられても、マイクには苛立ちしかなかった。母親は断酒のために2週間のリハビリテーションに出かけ、ディベロッパーの仕事がうまく立ち行かなくなっている父親は、差し押さえられた自宅にマイクを一人残し、部下であり、愛人であるモナと2週間の「出張」に行くと言う。「普通」だったら楽しいはずの夏休み、マイクには他のクラスメートのようなバカンス旅行もなく、自宅のプールで過ごしていると、チックがロシア製ラーダ・ニーヴァを運転してマイクの家までやってきた。マイクが「盗んだのか?」と聞けば、平然と「刑罰の対象は15歳から」と返すチック。車内を見れば、配線を直結してエンジンをかけている…。マイクが歓迎していないのもおかまいなしに「いいプールだね!」なんて言いながら、家に上がり込んできて、2人で対戦したら当然楽しいに決まっているプレイステーションでちゃっかり一緒に遊び始めてしまう。タチアナの誕生日パーティーに興味のないそぶりを見せるマイクに、チックは招待状をもらっていないのは自分だけだと思っていたと驚く。ゲイだったら、パーティーを盛り上げるホットな女の子たちなんかに興味ないだろうけどなんて言うので、マイクはプレゼントとして必死に描いていたタチアナの似顔絵を見せる。友だちがいないのは「自分がつまらない」人間だからと思い込んでいるマイクに、チックは「存在感の問題」だと、ラーダを運転し、招待状がないにもかかわらず、2人はタチアナのパーティーに乗り込んでいく。

ベルリンを出発した2人のラーダはポンコツ、チックの祖父がいるという「ワラキア」(ルーマニアの地名であり、ドイツ語では「地図にのっていない未開の地」、「へき地」を意味する言葉という)を目指して、ひたすら南に走らせる2人に流れる音楽は、最高のボルテージで疾走感にあふれている。自分の抱える臆病さから一歩前へ踏み出そうとする葛藤の間に起こるこの衝動は、この冒険は、このワクワクのはじまりは、14歳だけの特権か?もちろん、生命体としての14歳のこの鼓動を、このセンセーションをもう二度と体験できないとしても、あるいは14歳の時に残念ながら体験しそびれていたとしても、14歳で知らなかった、自分の存在感をうまく表現する方法を大人になった今は、大好きな、最高にかっこいいバディと出会い、旅をし、「50年後 ここで会おう」と言い合える奇跡を、その喜びの中でもう手にしているかもしれない。あるいはその最高にかっこいいバディをもうすでに喪ったことがあったとしても、自分の中に今もよみがえるその時を、このロードムービーを観れば、きっと抱きしめたくなるはずだ。



『50年後のボクたちは』

監督・共同脚本:ファティ・アキン
脚本:ラース・フーブリヒ
原作:ヴォルフガング・ヘルンドルフ(「14歳、ぼくらの疾走」小峰書店)
出演:トリスタン・ゲーベル、アナンド・バトビレグ・チョローンバータル、メルセデス・ミュラー
配給:ビターズ・エンド
2016年/ドイツ/原題:Tschick/93分/ビスタ

公式サイト:http://www.bitters.co.jp/50nengo/

9月16日(土)より、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿シネマカリテほか全国順次ロードショー!


『50年後のボクたちは』(C)2016 Lago Film GmbH. Studiocanal Film GmbH
POSTED BY
Junko HONMA
Junko HONMA / Movie Journalist
「クリエイターとのダイアローグからそのさきへ。そんな“場”をつくっていけたら。」
2012年より映画の上映会や配信の運営、PR、TVドキュメンタリーの制作の現場を経て、“ことばで伝える”ことに立ち返り、表現を取り巻く状況が大きく変わりゆく時代の中で国内外で“領域”を越えて、新たな取り組みに挑戦しつづけるクリエイターのいまをお伝えします。本サイト「theatre tokyo/ creators park スペシャルインタビュー」ほか、ウェブマガジン『HYPEBEAST.JP』ではライフスタイル、カルチャーの翻訳を担当中。大阪の制作、エキストラで初参加させていただいた、リム・カーワイ監督作品『Fly Me to Minami~恋するミナミ~』DVD/iTunes配信も絶賛発売中!!