CP -ONLINE REPORT MEDIA from TOKYO・CREATORS PARK- 東京・クリエイターズパーク

  • YouTube
  • facebook
  • twitter
  • RSS
TOP | NEWS

全身で音に耳を傾ける 『Ryuichi Sakamoto: CODA』

2017.11.14 up
CODA_メイン MASTER_COLOR038_BUCKETHEAD
       

よく笑う人だ。
ユーモラスに語り、人をよく笑わせる人でもある。

比類なき感性で “サムライ”のごとく、常に時代を斬り開く革新的な映画を世界へ発信し続けてきた映画人の功績を称える “SAMURAI”賞。記念すべき第30回東京国際映画祭、今年の受賞者は、映画音楽家としても米アカデミー賞を始めとして、世界をリードしてきた坂本龍一。TOHOシネマズ六本木にて11月1日に開催されたその授賞式では、「サムライという名に私がふさわしいかは大いに疑問がありますけれども」と感謝の気持ちを述べつつ、トロフィーにある刀のビジュアルから、坂本がキャストとして、映画音楽家として関わった最初の作品である『戦場のメリークリスマス』(1983、大島渚監督)の撮影現場で出演者みんなで刀を振り回していた時のエピソードを思い出して、「思わず振り回したくなっちゃった」と会場の笑いを誘う。


S0882175
第30回東京国際映画祭 第4回“SAMURAI”賞受賞式


映画音楽とは何かと聞かれた坂本は「必ずしも映画にとって音楽は必要ではないですよ。それはもちろん監督が決めるんだけど、映画が必要とするかどうか。必要とされる場所にストンとこの必要とされる音あるいは音楽がそこにあれば、映画の中の音楽の役割としては最高に幸せなケースだと思います」と応える。受賞式当日に開催されたTIFFマスタークラス「第4回 “SAMURAI”賞受賞記念 坂本龍一スペシャルトークイベント~映像と音の関係~」では、音楽・文芸批評家の小沼純一氏をモデレーターに、坂本龍一のこれまでの軌跡と映画音楽論としてディテールにわたって語られた。上述の『戦メリ』における俳優としての初の出演依頼に対して、「音楽もやらせてくれるなら」と大島監督へ逆オファーしたものの、実際には「右も左もわからない、何とかやった」ところから始まり、ベルナルド・ベルトルッチ監督との『ラストエンペラー』、『リトル・ブッダ』での今でも「胸が痛む」というボツネタエピソード、「ゴーっという風の音なのか、雪原の下の氷が軋む音なのか、その間に鳥が鳴いたり、コヨーテが鳴いたり」といった自然を映画の主役として「それを際立たせるための音楽、音のつくり」を大事にしたアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督との『レヴェナント:蘇えりし者』まで、一筋縄には行かなかったというエピソードの数々。


S0662132
TIFFマスタークラス「第4回 “SAMURAI”賞受賞記念 坂本龍一スペシャルトークイベント~映像と音の関係~」


11月4日より公開中のドキュメンタリー『Ryuichi Sakamoto: CODA』は、本作が劇場版映画初監督作品となるスティーブン・ノムラ・シブル監督が世界的音楽家 坂本龍一の震災以降の「音楽と思索の旅」を2012年から、5年間に渡って密着取材したもの。本作の中で私たちは、『LIGHT UP NIPPON』(柿本ケンサク監督、2012年)や『フタバから遠く離れて Nuclear Nation』(舩橋 淳監督、2012年)など、東日本大震災の被災地や福島第一原発事故後の人々の生活について撮影されたドキュメンタリーの音楽やテーマ音楽を担当してきた坂本が、2012年には宮城県名取市で津波の中を流れたピアノに触れ、2014年には防護服に身を包み、福島第一原発に近い帰還困難区域の無人の地の音の中を歩く姿を目にし、また敬服してやまないイニャリトゥ監督からの『レヴェナント』のオファーに、がん治療のための活動休止中で、限られた時間しか作業できない中で「自分の限界にぶちあたる」という率直な言葉を聞く。
「映画音楽でいろいろと実験をすることによって、自分の音楽も影響されて、いろいろ変わってくるというのは当然あります。音楽としての文法を壊していきたいと強く思っているのも、映画の影響が強いのかもしれない」と、スペシャルトークで語られた自身の作品と、監督との仕事となる映画音楽との関係。2014年にがんが見つかって治療のために延期になっていたソロアルバムの構想について、本作の中で語られる『惑星ソラリス』(アンドレイ・タルコフスキー監督、1972年)で使用されたバッハのコラール前奏曲を「タルコフスキーに使われてしまったから悔しい、そういう曲を自分で書かなきゃ」と深く探求する姿に、そのクロスオーバーを見る。


今年8年ぶりのリリースとなったソロアルバム『async』は、「あたかも存在しない映画のサウンドトラックのような感じでつくった」という。「良質な環境で音楽に向き合ってもらえたら」と、音楽と映像のインスタレーションとして「Ryuichi Sakamoto | async 坂本龍一 | 設置音楽展」が今年ワタリウム美術館で開催された。その展覧会でコラボレーションしていたタイのアピチャッポン・ウィーラセタクン監督とともに開催している『async – 短編映画コンペティション』について、スペシャルトークでの会場からの質問には、「自分の音楽がとてもシネマティックで、映像作家に刺激を与えるのではないか」と思って開催したところ、応募総数は700作品ほどに上り、「今、鋭意全部観ているところ」だそうだ。
さらに音楽を学ぶ学生が「モーツァルトやラヴェルは亡くなってしまっているが、研究者としては後世にどんなことを残していけばよいのか、坂本さんは生きていらっしゃるので教えてください」と聞き、坂本も含め、会場は大きな笑いに沸いた。「面白いのは、割と聴いている音楽とか読んでいる本はみんな亡くなった人たちのものですよね。何千年前の亡くなった人たちの遺産というのかな、残してくれたものを滋養にして僕たちは育ってきている」と坂本は応え、「武満さんの音楽は100年後の人たちも聴いているかな?自分は忘れ去られても全然構わないんですけど、そういうことをよく考えますね。みんな割と目先の興味で、ものをつくるというのは近視眼的になりがちで、なかなか大きなものが見えなくなってしまう」と実際に交流のあった武満徹について語った。


S0193028
東京国際映画祭 特別上映作品『Ryuichi Sakamoto: CODA』上映前舞台挨拶
スティーブン・ノムラ・シブル監督と坂本龍一


坂本の「サムライ」賞受賞式に引き続いての、東京国際映画祭での特別上映作品として上映される際にシブル監督は、「坂本龍一さんについての映画なので、音で感じられる映画であってほしいという風にずっと思っていました。編集をする際にも我々は耳でつないでました」と舞台挨拶を行なった。国内外の政治状況と自然環境の急激な変容の中で、音楽家として活動してきた坂本龍一が人間が作り出したピアノのように消えてなくなる音に対して、「消えない音への憧れ、永遠性への憧れ」から日々「自然の音」を探求する姿に、その音に、今、劇場で耳を傾けてみてはどうだろうか。




『Ryuichi Sakamoto: CODA』

出演:坂本龍一
監督 : スティーブン・ノムラ・シブル
プロデューサー : スティーブン・ノムラ・シブル エリック・ニアリ
エグゼクティブプロデューサー : 角川歴彦 若泉久央 町田修一 空 里香
プロデューサー:橋本佳子 共同制作 : 依田 一 小寺剛雄
撮影 : 空 音央 トム・リッチモンド, ASC
編集 : 櫛田尚代 大重裕二
音響効果: トム・ポール
製作/プロダクション:CINERIC BORDERLAND MEDIA
製作:KADOKAWA  エイベックス・デジタル 電通ミュージック・アンド・エンタテインメント 
制作協力 : NHK  共同プロダクション:ドキュメンタリージャパン
配給 : KADOKAWA 
2017年/アメリカ・日本/カラー/DCP/American Vista/5.1ch/102分

公式サイト:http://ryuichisakamoto-coda.com/

11月4日(土) 角川シネマ有楽町、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国公開


『Ryuichi Sakamoto: CODA』©2017 SKMTDOC, LLC
POSTED BY
Junko HONMA
Junko HONMA / Movie Journalist
「クリエイターとのダイアローグからそのさきへ。そんな“場”をつくっていけたら。」
2012年より映画の上映会や配信の運営、PR、TVドキュメンタリーの制作の現場を経て、“ことばで伝える”ことに立ち返り、表現を取り巻く状況が大きく変わりゆく時代の中で国内外で“領域”を越えて、新たな取り組みに挑戦しつづけるクリエイターのいまをお伝えします。本サイト「theatre tokyo/ creators park スペシャルインタビュー」ほか、ウェブマガジン『HYPEBEAST.JP』ではライフスタイル、カルチャーの翻訳を担当中。大阪の制作、エキストラで初参加させていただいた、リム・カーワイ監督作品『Fly Me to Minami~恋するミナミ~』DVD/iTunes配信も絶賛発売中!!